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【読書】米澤穂信『本と鍵の季節』『栞と噓の季節』

ミステリといえば、何かしらの悪事を起こした"犯人"がいて、残された手がかりから真相を解き明かす!……のようなイメージが強いかもしれませんが、必ずしもそうとばかり言えないのが米澤ミステリ。普段は閉まっているはずの鍵がなぜあいていたのか?なぜあの人物はあんな行動をしていたのか?ミステリが描くのは大きな事件ばかりではない。日常の中に起きた小さな謎、不思議、違和感。それを解き明かすミステリも大変におもしろいものだと教えてくれました。

そして時に「謎を解くことは必ずしも正しいことなのか」も提起されます。それは悪意を持って起こした出来事なのか?起きてしまった想定外の悲劇を隠すための噓なのか?何かを"守る"ための行為だったのか?謎を明らかにすることが、本当に良いことなのだろうか。真実を白日のもとにさらすことで…腹の底に隠した本音を引きずり出すことで……そこには何が生まれるのでしょう。

本と鍵の季節 〈図書委員〉シリーズ (集英社文庫)

栞と嘘の季節 〈図書委員〉シリーズ (集英社文庫)

米澤穂信『本と鍵の季節』『栞と噓の季節』を読みました。新刊情報をスコンと見落としている間に『図書委員シリーズ』なるものが出ていたのですね。なんなら文庫化までしていたよ。冬期限定ボンボンショコラ事件は認識して手に取れたのに、なぜ新シリーズを見逃していたのか。

堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!

本と鍵の季節 〈図書委員〉シリーズ (集英社文庫)

 

高校で図書委員を務める堀川次郎と松倉詩門。ある放課後、図書室の返却本の中に押し花の栞が挟まっているのに気づく。小さくかわいらしいその花は――猛毒のトリカブトだった。持ち主を捜す中で、ふたりは校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見する。そして、ついに男性教師が中毒で救急搬送されてしまった。誰が教師を殺そうとしたのか。次は誰が狙われるのか……。「その栞は自分のものだ」と嘘をついて近づいてきた同学年の女子・瀬野とともに、ふたりは真相を追う。

栞と嘘の季節 〈図書委員〉シリーズ (集英社文庫)

 

短編で描かれる『日常の謎』も、骨太の分厚いミステリもどちらもおもしろい米澤作品。シリーズ一作目は高校生の送る日常の中で起こった不可思議な出来事を紐解くタイプのオムニバス作品で、二作目は一つの大きな出来事を追いかけていくタイプとなっていました。どちらも楽しめて大変よろしい。

主人公である堀川・松倉の掛け合いが楽しいですね。どちらもそれぞれの着眼点があり、それぞれのキャラクターだからこそ気がつける要素がある。「口には出さねえけど気づいたことあるんだろ??」みたいなコミュニケーションが双方にあるし、本当に気づいてないだけのこともあったりするし、悟られないように隠している時もある。なんだか不思議な関係性だ。ペアでいうと小市民シリーズを思い浮かべるけれど、あの2人とはまたちょっと違うのよな。

 

米澤ミステリは、『些細な違和感』に気がつこうと思えば気がつけるように、フェアに書いている印象があります。例えば「XXもあれを選んだ」というセリフがあれば、"も"の部分が実は鍵になっているとか。とっさに出た言葉の違和感もそうだし、しれっと描写されてるけどあの部屋になぜあんなものが?みたいなことに気がつけるかどうか。気がついた時に、ということはつまり…?と同じ土俵に立たせてくれる。

本作では、堀川あるいは松倉がそれに気が付き、「ってことは…」と紐解いていくテンポが比較的早いイメージがあります。読者が気が付かなかったとしても、割と早い段階で「こんな違和感があったぞ」と提示してくれて、謎が解かれて、読んでいく中での快感がサクサク与えられる体験が多かった印象でした。しかしながら、その違和感自体は提示されても、「ってことは…どういうことだってばよ??」と謎が新たな謎を生み出し……引き続き読者を物語に引き摺り込んでいきます。

もちろんそればかりではなく、違和感をすぐに回収せず、最終的に複数の違和感を組み合わせて大謎を解く場面もあったり。いろんなバリエーションのミステリが楽しめるシリーズになっていますね。

 

米澤穂信先生が丁寧に散りばめるフェアな手がかりと軽快な会話劇。解かれた謎が新たな謎を呼び、読後に残るホロ苦い後味。

『鍵』にまつわるさまざまな思惑と、鍵穴の向こうにある隠された真実。

『噓』をつかれて、噓をつかざるを得なくなって。噓に包まれた事実を紐解いて辿り着く新たな噓。何を守るために、何を隠すために噓を重ねるのか。

謎を解いて暴かれる、人間の願い、苦しみ、そして祈りが、読者の胸にじわりと沁みる。そんな青春ミステリがここにありました。

 

 

……なんかしっとりした紹介文章で終わりそうになった!危ねえ!感想を書くぞ!ここからはネタバレではないと思うけど作品の内容にちょっと触れていくから気を付けてね!!

 

本と鍵の季節

現時点でのシリーズ二作だとこっちのほうが好きですね。短編集なので、いろんな場面が見られて楽しいです。『ない本』『昔話を聞かせておくれよ』の読後感がたまらん。ィィィー!!となる。『ない本』は別シリーズのあの話を思い浮かべたよね。よねぽはこういうの書いて悲痛な思いを抱かせるのがうまいんだ。

『昔話を聞かせておくれよ』はもうさあー!読み終わったときに「えっ!シリーズの続編があるんですか!?本当に?!?」と思いました。本当に続編があって安心したけど最初の数ページはずっとハラハラしてました。

栞と噓の季節

こちらは大きな一つの物語。えっそれ噓なの!?それが噓ってことはどういうことなの!?が小気味よいテンポで現れて読ませる読ませる。米澤穂信~~~!って感じでした。何を言うとるんでしょうか。

瀬野さん、最初はなんじゃなんじゃ大丈夫かと思いましたが、終盤もりもり好きになりました。クラスメイトと一つの目的に対して一緒に行動する学生生活、いいなあ。

 

ちょっとだけネタバレになるのだけど…

 

 

 

最後、あのこってりとした真相究明パートの割にあっさりさくっと犯人を退場させて、スカッとするでもなく、少ししこりを残しながら終わったのが"っぽい"なぁと思いました。そして、一作目となんとなーく似てる終わり方なのが良い。きっと三作目があれば瀬野さんも出てきてくれるのかな。どうかな。彼女の願いは叶っているのかな。