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プロジェクト・ヘイル・メアリー感想/「何も知らずに読むのがいい」とはどういうことか

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだ。「何も調べずに読め、あらすじすら読むな。映画化が決まっており今後情報から逃げづらくなるから今のうちに読め。」と私の周囲の方々が声を揃えていた作品だ。読み終わった今ならその意味がわかる。マジで何も知らずに読むほうがいい。ググってサジェストに出る内容ですら危ない。

こうした読後感の中、感想記事を書くのを若干ためらった。とはいえ、何か書き残しておきたい。以下、未読の方に向けた紹介と、読了後の方と「だよねー」と言い合うようなテイストで書いた構成に分けて書きたい。

↓商品リンクを貼るが、あらすじや他者の感想にも気をつけてほしい。

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上

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物語に触れない範囲での感想。「なぜ知らないほうがいい」のか。

"核心がネタバレになる作品"とは違う性質なのではないかなと思う。「絶体絶命のサバイバルの中、彼は生きて帰れるのか!」「○○のような奇妙な事件が起きる。犯人はどうやって実行したのか」といった、大枠の背景をあらかじめ提示された上で、核心についてどう紐解かれていくのかを楽しむような作品であれば、それこそ"真実"や"結末"がネタバレになるのだろう。

本作は「何が起こるのかを読み進めていくこと」こそが最大のエンターテインメントになり得る作品だ。もちろんSF作品として、科学的アプローチやロマン溢れる仕様の事細かさもある(ただ、その難しさは一旦軽く読み飛ばしても大丈夫!)。主人公と一緒に、状況や出来事を追体験していくことをおすすめしたい。

著者の前作『火星の人』(映画『オデッセイ』原作)は、映画化によりあらすじがおおよそ知れ渡ってった。これが知れ渡ったあとは、この危機的状況をどう乗り越えるのか!?が映画鑑賞の、読書の主たる目的となったのではないか。

火星の人〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫SF)

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が映画化によりどう取り扱われるのかはわからない。ただ言えるのは、あらすじで語られるような背景も、今後起こる出来事も、主人公と一緒に追体験していくのが一番だということ。そもそも本作がそういった構成になっている。一緒に驚き、一緒に戸惑い、一緒に悲しみ…そして、一緒に体験して欲しい。主人公が「おいおいおい。マジかよ」と軽快に独り言をつぶやいたり、ユーモア溢れる描写で物事に向き合ったり、なんとなく映画化するのもうなずける楽しさもある。でも映画化する前にみんな読んでほしい。映画化したらPVとかどうなるんだろ…感想とかも普通にネタバレに溢れそう。そう、「ここがよかった」とか言うだけで楽しみが少し奪われてしまう。

 

うーん…とはいえ何もわからない中で手を出すのは抵抗があるだろうと思う。読書中の感想や読後感の話しか言えないが、「読み終えたくない」作品タイプだった。もっと読んでいたい、終わりたくない。それほど愛着が湧いてしまう作品だ。感想を大声で言いたいけど、未読の方に知られてはいけない、というのもある。表立って話してはいけない。読了した人とだけ通じ会えるような、そんな秘密の体験だと言える。

ここまで読んで、何もわからなかったと思う。

あなたに問いたい。最近、何もわからないことを、まっさらなところから知っていく体験をしているだろうか?すぐに攻略情報を調べたり、他者のレビューを見てみたり。オープンワールドのゲームで「あそこには強いボスがいるよ」とtwitterで見てから備えるのではなく、いきなり強いボスに出会ってしまう驚きを味わうような、あるいは、ゲーム内の会話から不穏な情報を得て、覚悟を決めて向かうような。未知なる冒険、未知なる驚きには飢えていないだろうか?

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』にはそれがある。書店で買ったなら帯すら隠して、kindleで買うならあらすじの文言は薄めで無視して、読み進めていってほしい。

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上プロジェクト・ヘイル・メアリー 下

 

ここからは読んだ方向けです

 

 

 

 

 

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ここからは読んだ方向けです。あなたは読んだ人、質問?

 

まさかバディ物の萌え系小説だとは思わなかった…(語弊がある。いや、間違いではないだろう)何も知らずに読んだ方がいいの意味がよくわかる。地球に起こっている危機的状況、プロジェクトのとんでもなさ、そして、そして!!!他の知的生命体との遭遇。こんなのあらすじで書いていようものなら、そこに出会うまでのワクワク感がまったく違う性質になってしまう。そして、ロッキーの愛くるしさよ。

ロッキーかわいい。

SFって難しいなぁと思うことが多々。いや、この分野に強い人は本当にすごいなあと尊敬する。マジで科学難しい。科学、すげえ(感受性が幼体化)

冒頭は脱出ゲーム感ありましたね。いきなりわけもわからない空間にいる自分。周りの手がかりからヒントを得ていく…!なんて構造がまさにブラウザゲームのそれでしょう。

めちゃくちゃおもしろかったな…何が起こっていくのか、それが起きたら今度はそうなるよね、というのもスムーズに入ってくる。「それはないだろ!」なんて形ではなく、そうなったからそうなるのだ、という理詰めの展開がさすが科学という感じである。論理的に、科学的に説明できないことはないのだ。(そもそもロッキーに出会うことが非科学的?ははっ、おもしろい質問だ)

ロッキーかわいい。

クライマックスは本当によかった。危機的状況を脱したと思ったら、その危機はロッキーの方でも起きているはずだ!!の衝撃と絶望感。希望が絶望に変わる瞬間っていうのは、感情をこうも揺さぶる。そのあたりでページ数の少なさに気がつく。ああ、でも終わってしまうんだ。

最後そこをだらだらと書かないのがこの作品の素晴らしいところだと思う。いくらでも引っ張れそうな内容を、淡々と書き切ることで、多くの想像の余地も残すし、当たり前のように大事にされたんだということ、ロッキーと皆の施しの手厚さを信じることができる。こんなに登場人物に愛着が湧く物語もあるまい。

あー、ロッキーかわいい。