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小説『火星の人』、映画『オデッセイ』感想/思考ダダ漏れ追体験とサバイバルのハラハラ観測体験

アンディ・ウィアーの小説『火星の人(原題: The Martian)』を読みました。そして映画『オデッセイ(原題: The Martian)』を観ました。オデッセイってどこから来たんだ。ちなみに映画はアマプラで見ました。プライム対象ではないのでレンタルで。おいおいでごにしては珍しいムーブをしてるじゃないか。

公開当時、火星DASH村的な賑わいを見せていた本作。原作と映画では驚くほどに印象が変わりますね。本筋に大きな違いはないのですが、特に主人公マーク・ワトニーの印象がね…。映画ならではの表現もよき、小説ならではの物語の進め方もよき。結論どちらもおもしろかったのですが、今日はそのあたりを書いてみようと思います。えっ日本では原作は2014年、映画は2016年に公開?今何年ですか…?ええっと。

火星の人〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫SF)

オデッセイ(字幕版)

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映画も話題になったことですし、あらすじ自体は触れてしまいますが…火星ミッションの途中で緊急離脱をした際に取り残されてしまった主人公の火星サバイバル作品です。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も映画化したらあらすじである程度知られてしまうのだろうか。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はあらすじも読まずに読んでくれ…今のうちに…!

脱線しました。『ヘイルメアリー』読んで、『火星の人』読んで、『アルテミス』も読みました。みなさん、アンディ・ウィアーすごくおもしろいですよ。

おもしろかったなぁ

いやあ、おもしろかったです。森見登美彦的な自分語り、モノローグ形式で進んでいくのは大好物だったので原作はもりもり読めました。科学的、宇宙的小難しさは薄目で読みながら…ですが。

でもその科学的なところ、宇宙科学的な仕組みの緻密な描写が筆者の強みなのだろうと思います。アレができればこうなる、ソレがネックでこれができない。コレのせいでこんなトラブルが起こる。その因果関係、引き出しの物語への絡め方が抜群にうまいから、説得力のある作品になっているのかなあ。

マーク・ワトニー奮闘記が延々と続き、ちょっと胸焼けしてきたなと思った頃合いで、"マーク・ワトニーが死んでしまったと思っている"地球側の場面に移り、「あれっもしかして生きてる…?」となるあたりから加速度的におもしろくなりました。地球側は第三者目線の小説描写になるあたりもうまい。味変ってやつですね。小説的表現の使い方がうまいなぁと思わされます。他にもあえて第三者目線での描写をすることで読者の感情を動かすシーンがあります。これがうまい。

もちろん映画でもこの双方が絡み合う部分は、「えっ生きてるんじゃね…」となってからの人々の空気感、戸惑い、希望への活路といった物語の動き方には興奮してしまいますね。

脳内思考垂れ流しの小説/登場人物の作業を黙々と見守る映画

小説と映画の大きな表現の違いはここになります。小説はマーク・ワトニーがログに残した口頭記録をベースに展開されます「なんてこった!」的な語り口が続く。時に心細く、時にユーモアたっぷりに。何が課題で、何を考え、どうアプローチしようとして、「これにさえ気をつければへーきへーき」→"これ"が原因で失敗 みたいなオチがつく…といった思考&行動プロセスを追っていけるので、何が起きているのか詳細にわかる。……あ、いや盛りました。科学的要素が強くてわからない部分もありました。SF難しい。宇宙、難しい。

一方、映画はあんまりマーク・ワトニーが独り言を言いません。一応ログを残すようなシーンはあるのですが、体感少なめ。黙々と作業を行い、なにか失敗したり、うまくいったり。うまくいくまでの試行錯誤や、しれっとやってるけどめっちゃ大変なんだぜ感がよくわからなかったりします。そういう意味では、「この状況をどう乗り越えていくのかな?」を見守るような形になりますね。小説を読みながらマーク・ワトニーの思考を追いかけていく読書体験と、マーク・ワトニーの行動を見守っていく映画体験。ここが大きな違いでしょう。

小説ではあんなに細やかに作物の話やハブやエアロック周りの話をしていたのに、一転映画では詳細の説明がないので、「なんかよくわかんねーけど技術者ってすげえな」みたいになります。そこまで難しい説明が映画に必要なのかと言われれば確かにそうなので、映画だからこその見せ方を否定するつもりはないです。小説を先に読んだから思った違和感ですね。映画みてから小説読んだら「あーなるほど」ってなるんじゃないかな。

もちろん映画では省かれているシーンも多々あるし、というか苦労や試行錯誤は大半がカットされているので、映画→小説で読むのは結構おすすめかもしれません。小説→映画は脳内イメージの肉付けとして価値があります。映画は映画でよくできてるんだよな。

マーク・ワトニーのユーモアっぷりの味付けが異なる

キャラクター造形も大きく違いますね。マーク・ワトニーの脳内思考垂れ流し…ユーモアたっぷりに過酷な状況を切り開いていく思考は痛快そのもの。いや状況としては笑えないんだけど。

先述の通り、地球側の場面に移り、火星とどう交信するか!?と双方の場面が交錯するあたりから本作のおもしろさのギアが一段引き上がるわけですが、マーク・ワトニーの思考の対象が自分の作業だけでなく地球、NASAに対してになってくるとユーモアも一段引き上がる。

NASA「発言には気をつけてくれ。この内容は全世界に配信されている」
マーク「見て見て! おっぱい!→(.Y.)」

映画ではおっぱい言わない。(ときに低俗な言葉は言ってたぽいけど詳細は省かれていた)。おいおいおい!ここでの「こんな状況でおまえマジかよ」がマーク・ワトニーの人物描写の真骨頂じゃないか!と!!!他にも、NASAの偉そうな指示に従わず作業して、結果うまく行ったあとNASAが毒づくような原作のシーンもよかった。「調子に乗るなよ」の返しで笑う。

映像、音楽、そして演技の強み

映画ならではの強みは、シンプルに映像と音楽と演技でしょう。火星の嵐がやばすぎる。宇宙開発系の装備品や設備については小説ではどうにもイメージの領域を出ず(それが楽しいのだけど)、映像化されて「ああ、こうなってたんだ!」と肉付けされるのが嬉しい。ローバーのイメージ全然違った。映像を見てから小説を読むと脳内理解がとてもはかどるかもしれませんね。繰り返しになるけど小説を読みながら「これってどんなもんなんだろう…」とイメージを膨らませるのも醍醐味だと思います。

でも実際の宇宙技術的にあるものについては知っておいたほうがいいかもですね。ところでEVAで着る宇宙服のイメージって船内クルーのソレだったんですけど、火星ミッション中ずいぶんスタイリッシュじゃなかったですか?あれは何が違うんですか?教えて詳しい人。

そして音楽。船長の音楽の趣味はともかくとして、ありとあらゆる実在の音楽がマーク・ワトニーを救…いや、苦しめることもあるんだけど…救います。映画ではその音楽に合わせて描写が進むこともあり、効果的に使われているなぁ!と思う場面がちらほら。ホット・スタッフのところとかね。

ホット・スタッフ

ホット・スタッフ

  • provided courtesy of iTunes

演技は言わずもがな。特にぐっときたのは、大勢集まるようなところですよね。あの多くの人の感情が入り交じるようなシーンにおいては、映像だからこその熱狂や感動、そして緊張感がありましたね。もちろん個々の演技も素晴らしかったです。個人的にはブルースがよかった。ベネディクト・ウォンさん。アベンジャーズドクター・ストレンジ界隈)にも出てらっしゃるのか…。

Songs from The Martian

Songs from The Martian

  • アーティスト:Various
  • Columbia
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冒頭の痛いシーンにあんなに尺を割く必要があったのか

あったのだとは思います。これからの過酷さとか、重大インシデントだったんだな感を出すためには。でも、でも、私は痛いシーンが苦手なので、アンテナが刺さっちゃったマーク・ワトニーが自分でそれを取り除く過酷なシーンを、あそこまでみっちり尺を割いて細かく細かく映像化されたことがつらかったです。

ひーん。思った以上にきっちり描写するもんで、「ここにその数分を使うのか!?」と悲鳴すらあげちゃう。肉体美を見せられたシーンでもあるんだけど、もしかしてその需要に答える感じ!?筋骨隆々だったパイロットの序盤~終盤の体格の変化に気づかせるために、肉体美を披露させてたってこと…???これは不満というか、まぁ単純に私は痛いのが痛いので痛かったです。でも描くとこ描いてってことではあると思う。現実(リアル)見せつけるぜ、的な…。

 

 

 

ちょっとネタバレに触れますね。

 

 

 

 

 

先程もちらっと触れましたが、小説版で意図して第三者的描写になるところ。一つは、設備の破損を不穏に…不穏に積み重ねていくところ。マーク・ワトニーのユーモアたっぷり、根性たっぷりの試行錯誤の合間に、第三者視点の描写で設備の綻びが描かれていく。ああーー!マークー・ワトニー!!!

そしてもう一つは、目標地点に到達したマーク・ワトニーが喜んでいる様子を描写している場面。客観的に「男性が喜んでいる!!!!」と様々な形で表現していて、思わずうるっときてしまいます。そこで!!この書き方をするのか!!!あとはもちろんクライマックス。ああー。よかった。

 

 

映画で言えば、最後のミッションの時に全世界が見守っている感じや、管理センターでみんなが喜ぶようなシーン。ブルースやミッチが喜ぶ姿がたまんねえのよ。

なぜ船長が迎えに行き、アイアンマンもやってしまったのかはわからない。救出方法は原作通りでもよかったのではと思ったりもする。宇宙空間でのエア・アイアンマン怖すぎるでしょ。

あと映画で追加されたエピローグ。これはよかったですね。アンディ・ウィアー作品はクライマックスを迎えたあとの余韻の思い切りがすごくあっさりだなと思っています。いろいろ書いてもいいだろうに、エピローグは控えめ。映画ではちょこっと後日談があって、私としては良いもの見せてもらえたなと思いました。教室の作りがめーっちゃおしゃれ。