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『あきない世傳 金と銀』完結。"買うての幸い、売っての幸せ"を貫く道に訪れる、"縁と月日"の尊い巡り。

あー。終わりました。『あきない世傳 金と銀』。髙田先生の作品は、『みをつくし料理帖』もそうだけど、生きていく上で大事にしていきたいなぁと思う心得がたくさん詰まっている。"こんな思いで商いをする人こそ永く続いてほしい、多くの人を助け、時に助けられてほしい。こんな世であってほしい"という筆者の願いが、思いがたくさん込められているシリーズだなと思います。共通しているのは、いっときの栄華、大儲けではなくて、永く続き、永く愛される商いの道。まさに”買うての幸い、売っての幸せ”

あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇 (ハルキ文庫 た 19-28)

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着物を着るようになったから、特段におもしろかった

個人的に着物を着るようになったので、呉服商いの本作はとても興味深く読めました。呉服の取り扱いから始まり、庶民向けの太物、浴衣、帯についてや、反物をかけて見せる撞木についてなど幅広い展開を見せていき、素材の持つ特性などもワクワクしながら読めました。

当時の着物の取り扱われ方や楽しみ方を垣間見ることができました。今の風習、トレンド、商習慣に対してどこに目をつけ商いの目を見出していくのか、という紐解き方が丁寧で、納得性が高く、うまくストーリーに昇華させているのが髙田さんの上手なところだなと。着物のことを知らなくても、丁寧にストーリーに絡めているのでぐいぐい読ませてくれます。

知恵を絞る。真っ当に商いをする。

今シリーズで貫かれている"買うての幸い、売っての幸せ"の信念。パーッと利を得る商売ではなく、買う側の幸せと売る側の幸せどちらも大事にする。お客様に何ができるのか、何が喜んでもらえるのか。今何ができるのかに知恵を絞り、それは単に利益を得るためでなく、娯楽に繋がり、生活に繋がり、買い手の幸せに繋がることを考える。これの積み重ねにより、五鈴屋がお客様に、商売仲間に、地場にしっかりとしっかりと根付いていく。

この書きっぷりが心地よい。売れたものの模倣が出ることは承知の上。それでもしっかり良いものを使っているのだから模倣しきれない。あるいは、新しい何かが広まり生活が豊かになるのであれば、それも良しとする。

商売敵もいる。抜きん出てしまうと商売仲間からも疎まれる。様々な困難にぶち当たり、そのたびに知恵を絞り、丁寧に商いを続けていく。時の縁と人の縁を大切に、大切に。

波乱万丈の物語

時代が時代、本当に何が起こるかわからない。火事がその筆頭かもしれない。江戸時代は本当に火事がたくさんあったのですね。天災もあれば、ガバガバコンプライアンスによる商売敵の不正だったり、裏切りだったり、お上の理不尽な仕打ちだったり…。商習慣による制限や、お家騒動エトセトラ、エトセトラ…。

髙田先生は文庫本描き下ろしスタイルなので、1冊の中での構成がめちゃくちゃ上手い。めちゃくちゃ強い引きをすることもあれば、1冊の中で波乱万丈起承転結が嵐のようなこともあれば、シリーズとしての"縁"をぶわっと蘇らせることもある。商いを続けていくなかで、あのときお世話になったあの人が…!みたいな激アツ展開てんこ盛り。

それでもやはり、根底にあるのは髙田先生の「正しい行いこそ報われてほしい」という願いなのかもしれない。

東日本大震災があった時に水を暴利価格で販売したような商売ではなく、貴重な商品を不正に買い占めて転売するような商売ではなく…。売って終わり、買って終わりではなく、買った人の生活を豊かにすることが本来の目的なのだと、願いを込めて書いていたように思いました。

それはアカンすよ!!

みをつくし料理帖』も波乱万丈で結構な頻度で読んでいてしんどい場面があったのですが(どうしてこうなってしまうんや…!オオオ…オオオ…)『あきない世傳』は本当に本当にしんどいというか、「それはアカンすよ!!!!!!!!!」みたいなことがありました。読んだあと何日かは引きずった。こんな展開が待っているなんて思わんやんか…

商いは続くのだ

(『みをつくし』と『あきない世傳』最終巻の内容を含みます。若干ネタバレかもしれません)

 

『みをつくし』はまさに"雲外蒼天"ここに極まれり!!!みたいなクライマックスだったと記憶していますが、『あきない世傳』はどちらかといえば、そのクライマックス感は比較的控えめだったように思います。最終巻の中でハイパー大躍進!!かと思えば…!?の最後の最後にも嵐のような展開で、「これ本当に最終巻か???」みたいな辛いこともある。

けど、この作品を締めくくる中では、すごく”らしい”最後の展開だなとも思いました。本当に目指したい道はどこにあるのか。もっともっと買い手にとって良い商いのあり方とはなんなのかを考えていく。そう、これからも考えていく。幸の、菊栄の、五鈴屋メンバーたちの奮闘は今後も続いていく。荒波に揉まれながら、どうにか船を漕ぎ出して大海に繰り出した彼女らの航海は続いていくのだと。

そんな爽やかな読後感でした。今後も特別編が刊行されるようなので、楽しみに待ちます。