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採用ページの「産休育休制度あります」の違和感。『男性の育休』を読んで

「男性の育休」を読みました。

日本の少子化問題をなんとかするには出生率を上げねばならん。そのためには男性の育児参加がホント大切。ホント大切なんだけどなんで男性の育休取得進まんのじゃ?データ的に「取りたい」人は多いのじゃぞ?それには大いなる誤解や取りにくい雰囲気が壁となっておるのじゃ……それを紐解いて行こう…という本です。

経営者、管理監督者、人事担当は筆頭で読むべきだし、将来子どもを持つことを考えている方々も知っておくべき内容がてんこもりです。

 現在、若手男性社員の8~9割が取得を希望している男性の育休。
しかし、社員の希望とは裏腹に、取得率は7%台と横ばいを続けている。
日本経済に深刻な影響を与える人口減少の突破口として、さらに企業を活性化させる施策としても期待されている男性育休。
にもかかわらず普及しない理由、「男性育休義務化」が注目される背景は何なのか。自民党有志議員による「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」の民間アドバイザーである著者2人が、豊富なデータや具体的事例をもとに詳説。
育休取得を考えている男性やその家族はもちろん、部下が育休取得を希望しているマネジャーや企業の人事担当者まで役立つ内容となっている。

育休を取得しなかった理由で「職場の人手不足」に次いで回答が多かったのが「制度が整っていなかったから」でした。本書でも口酸っぱく書かれているとおり、「規則が無かろうが法律的に定められている」のであり、制度がないなら法が優先されるのです。

「うちには育休の制度が無いから取らせない」は、「うちには残業代の規程が無いから残業代が発生しない」みたいな言い分に近いです。

当記事では、本書でも触れられていた「誤解」をテーマに書いていこうと思います。

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採用ページで感じる違和感

就職活動をする中で、めちゃくちゃオシャレな採用ページに出会い、いろんな制度をデデデン!とアピールするなか、「産休・育休制度あります!!」と堂々と掲げている場面に遭遇したことはありませんか?「…この国で人を雇用する以上は…当然…その制度はある……」と目を細め、天を仰いでしまいますね。働いたら給料が出る、みたいなもんです。(似たようなところで「社会保険を完備しています!」「健康診断を受けられます!」というのもあります。これらは人を雇って働かせる上での義務です)

これらのアピールは何故発生してしまうのでしょうか。

担当者の誤解

単純にページを手掛けた担当者が知らないケースが当てはまりそうです。育休制度があるアピールで、働きやすい職場感を演出!!社会保険も完備しているし、健康診断も受けられます!!!(※事業主の義務です)

応募者が誤解しがちなので先手を打っている

担当者側が悪いのではなくて、書かないと応募者が「育休制度無いのかな…」と悲しい別れを告げてしまうリスクを回避しているのかもしれません。書いてないと「ないんですか?」と聞かれるのが多いのかもしれない(正直応募者も知識を持つ必要がある)

しかし、それであれば「制度があるか」ではなく「制度がどれだけ使われているか」をアピールすればいいですね。

載せるべきは実績や、法律を上回る独自対応の有無

育休が法律以上の長さで取れるとか、付加給付があるとか、復帰後の時短勤務も法律以上に取れるとか…最低限+αがある場合や、取得率がめちゃ高いなど「ある」だけじゃなくて「ばっちり使われている」実績であれば、アピールしてしかるべきかなとは思いますが、本来最低限法で定められていることを、わざわざ「うちには制度があります」と掲げているのは、アピールの仕方を間違えているのか、そもそも担当者が誤解しているのか??と思われてしまうかもしれません。

そもそも新卒採用の場面では若者雇用促進法に基づき 前年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)などを明示する努力義務が課されています。新卒採用の媒体では大体掲載されているんじゃないかな。「制度がある」は大前提で、実際どうなん?が新卒採用の現場では求められているのです。
就労実態等に関する職場情報を応募者に提供する制度について

採用に携わる人よ、法や社内制度の要点は最低限知っておこう

私は採用からキャリアをスタートしましたが、当初「これから入社する人たちのお給料を始め、働く上での制度について全然説明できないの怖すぎる…!!!」と戦々恐々ししました。労務も知っとかんとあかん!と思い労務や人事制度運用等にも携わるようになったのですが、ほんとこのあたりは押さえておかないと採用怖くてやっとられんです。

「採用」ってなんかキラキラしてたり、おしゃれページを作ったりどう惹き込むか!みたいなところばかり熱く語られがちだけど、その人の雇用とか入社後訪れるライフイベントに対し会社・社会の制度的にフォローできる要素があるのかとか、そういったところを説明できるに越したことは無いと思うんですよね。管理監督者も採用チームも割と労務に丸投げしたりしてくる場面に出くわしたことがあり、オイヨイヨイと思ったことがあります。

採用過程で面接官や採用担当者から説明された内容が実際の制度と違って「いい加減なことされたぁーーー」なんてミスマッチ、結構ありえるんだよな。これはほんとリスクですよ。

なので、採用活動は採用担当だけが張り切るのではなく、人事の他チームとの知識の共有だったり、実際採用したい部署との連携だったり、「みんなで」関わるのが一番良いのだと思っています。ゲットして終わりじゃなくて、今後一緒に働くのだから。その人にもその人の生活があるのだ。

「わかってねぇアイツはダメだなぁ!!」と悪態をつくのではなくて、勘所をチームで押さえておくアクションが必要だよね、と思いました。こういった形ね。

スイマセン、ちょっと話が逸れました。

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「休める」だけじゃなくて「休みに関する補償がある」から重要

他にも聞く誤解としては「育休中は無給で経済的にキツい」みたいな話。育休中は雇用保険から給付金が出ます。
期間にもよりますが給料の67%~50%で、普段はお給料から引かれている社会保険料が免除されるので、手取り額で言うと平常時の80%くらいにはなる?かな?みたいな数字です。とはいえ上限があるので、月額給与がべらぼうに高い人はがくんと手取りが減るのも事実っちゃあ事実。

※しかも2ヶ月分まとめての支給だったり、手続きからそれなりに日が掛かったりするので、序盤は確かにキツい気がします。予め説明しておく必要があるし、マジで会社担当者の対応が重要なんですよね…。

 

担当者としては従業員が経済的に安心して休めるかどうかが掛かってるんだぞ!としっかり認識する必要がある。……という大事なことを担当者はやってるんだぞ!!と労務系を軽視する方々には口酸っぱく言っておきたい(キエーーーッ!!!!)(すいませんスイッチが入りました)

この給付金は会社の懐から出てるわけではないので、「育休中も給与負担をしてもらってる」みたいな憂いは感じる必要は無い…んだけど、それも結構誤解されてる人が多いみたいですね。むしろ育休中は人件費が浮くし、育児との両立を支援することで会社としては補助金がもらえたりもするので、そのお金で育休中の業務カバー人員を手厚く対応する…などがね。必要なのかなと。

「育休を取る社員がいると、仕事が増えるだけで給与は増えない」と文句を言っている同僚がいたら、両立支援等助成金について伝え、不満を言うべきは育休取得者ではなく、お金の使い道を決めた経営者だと伝えたいものです。
男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる P.47

知らないともらえない/知らなかったら負担が増える

これらの制度の肝は「知らないと使えない」し「使わないと何ももらえない」ことにあります。自動的に何かが行われるわけではないのです。

育休制度について担当や上司が知らないから「うちでは育休は取れない」なんて言われて話が終わってしまう。採用担当が雇用に関する法を知らないあまり採用ページに堂々と普通のことをアピールしたり、ダメなことを書いてしまったり……。

 

特にあまり知られてなさそうなのは男性の育休に関する柔軟な措置でしょうか。結構短い単位で取得することも可能で、二度目も取れるぞ!というのは積極的に案内していきたいですね。

「パパ休暇」…産後8週以内に育休を取ると、1歳になるまでにまた別のタイミングでも育休が取れる。
「パパ・ママ育休プラス」…両親ともに育休を取ると休める期間がちょっと伸びる!
両親で育児休業を取得しましょう!(厚労省リーフレットより)

 

また、育休から復職したあと、時短等で給料が減る場合に社会保険料を下げる措置もあります。漢字がとっても多い。

育児休業等終了時報酬月額変更」…本来の社会保険料変更よりも早めのタイミングで見直しができる制度。
「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」…社会保険料下げたら年金の額が減るべ…という悩みに対して「養育期間中に社保が下がっても、今まで通り年金納めてるとみなしましょう!」という制度。

育休復帰後の社会保険料どうなる? 時短勤務の影響は|NIKKEI STYLE

何かあったときに安心できるように

産休育休に限らずだけど、これらの制度って、いざその当事者にならなければ気づかないことが多いですよね。手術する!!となって初めて高額療養費制度を知ったりとか。自分がそうなってないと、あるいは社員に発生してその手続を初めて知るとか…ほんとそういう担当になりたての日はヒヤヒヤしたものです。

dego98.hatenablog.com

 

「会社の制度」「社保の制度」などサッと提供できたり、迷いなく閲覧できたりする環境を作っておくのが理想ですね。制度が「ある」だけではなく「必要な時にちゃんと使われて」なんぼです。周知すること、使える雰囲気を醸成することが重要かなぁと。

冊子で各種制度についてまとめていたり、ポータルサイトにまとめたりしているケースもよく見ます。見ますが、いつの間にか「知る人ぞ知る」みたいになっているのもよく見ます。結構会社や国からの保証ってあるんだよー!!なんかあったら「これ、なにかサポートあるのでは…?」と調べたり聞いたりしてみるのは大事ですよー!!

…と、こういうのはホント当事者になったら一番痛感するし理解もするので、体験した当事者が情報をまとめて発信してるというのは本当に心強いですよね。

note.com

立場的に優位な人が持つ誤解はリスクだし、不幸も生む

「人を雇用する」立場の方々は、雇用者が果たすべき義務であったり、従業員を守るための制度などともっと向き合うべきなんじゃないかなぁと思ったりもします。キラキラしたことばかりに目を向けて、そのあたり軽視されてるパターン多ない?

「うちには育休の制度がない」みたいな誤解はまさにその筆頭で、そのあたりの姿勢から出る倫理観などは、採用であったり、従業員のエンゲージメントであったり、ステークホルダーに与える影響として大きいんじゃないかなと思いました。

 

完全の本の内容から派生した感想になっちゃいました。

本書ではこういった様々な誤解を解きほぐしてくれたり、昨今話題の「男性の育休義務化」は本人の取得を義務付けするのではなくて、企業が「対象者に取得を働きかける(=制度をちゃんと説明する)」義務化だよ!という方向であることがわかったりします。出産というクソデカライフイベントに対して、会社側として、社員が安心して育児を、「生きていく」ことをサポートできれば、双方にとってめちゃくちゃいいことなんだよなぁ。