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管理部門に求められるカスタマーサクセスのキモは、従業員にとってのエフォートレスな環境づくりとも言えそうだ。

以前「カスタマーサクセス」という本を読み、これは人事を始め管理部門系にも求められる考え方だなと思った…という記事を書いた。 

dego98.hatenablog.com

 カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセスというのは、「売ることが最大の目的」であったビジネスモデルから、今日の「継続してもらうこと」に主軸を置いたビジネスモデルへの変遷の中で「当該サービスを通じてカスタマーが成功すること」をどう意識し、どう大事にするのかという考えだと学んだ。

紹介した本はもともと海外で書かれたものが翻訳された性質もあり、初めて読むにはやや難しい言い回しがあったり、バックグランドの知識が必要になるような印象を受けた。後半は特にカスタマーサクセスの具体的手法に言及しており、その分野の経験が薄い私にとってはなかなか難しい内容だった。とはいえ、カスタマーサクセスという概念を学べただけでも得るものがあった。

 今回読んだのはこちらの本。青本に対し、赤本と呼ばれていそうだな。この本は(日本の)旧来のビジネスモデルと対比しながらカスタマーサクセスの現場と、今後のビジネスモデルのあり方について書かれており、腹落ちがしやすかった。カスタマーサクセスの技法よりも、その考え方、あり方、それは今までとはどう違うのか?というのを、日本のバックグラウンドを元に紐解いてくれる一冊だ。

 内容については、こちらの書評が素晴らしくまとまっていたので、内容についてはそちらを参照していただきたい。丸投げがすぎる。

カスタマーサクセスとは何かということに対する著者のわかりやすい例えは、
1)「最初の商いの継続」を最大化し、
2)「減った商い」を最小化し、
3)「増えた商い」を最大化する。
そうすることで、一度買ってくださったお客さまからの商いを最大化する、というものである。

『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』書評|デジタルマーケティング情報サイト MarketingBase

 顧客に対するアプローチを考える上でのこの概念は、人事として働く私にとって、従業員が如何にパフォーマンスを発揮し、如何に離脱を防ぎ、当社で働くことによってどれだけ成果を得られるのかを考える…ということに置き換えることになる。

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この本の中で特に印象に残っているのが、「エフォートレス」についての言及だ。導入後すぐに離脱せず継続してもらう、長期に渡ってつかってもらう、愛用してもらうためには、「おもてなし」よりも「エフォートレスな体験」が重要なのだと言う。 

問い合わせがあった際に丁寧なサポートがある…ということも大事だが、そもそも問い合わせをする必要がない仕組みだったり、問い合わせするにしてもその道筋、手続きがストレス無く行われること…というのが重要である。

「このシステムのエラーは誰に聞けばいいのだろう?」「この申請書の書き方がわからない」「新しいルールができたのはいいが、この場合はどうしたらいいのか?」従業員個々人が悩み、本社の誰に聞けばよいのか?どう聞けばよいのか?…といったことは会社の中で起きていることと思う。

こういった問い合わせを受けて管理部門は対応するが、これらの対応の知見は共有されているだろうか?その人だけでなく、他の人も含めて同じ問い合わせが起きないように対処したりはしているだろうか?

本社系の部門は、自分たちの作る制度やルール、展開するシステムをどう運用するかといったことに頭が回りがちだが、それを利用する顧客…従業員目線で物事を考えたことはあるだろうか?「操作マニュアル」がただの仕様書になっていないだろうか。 

本書の主題としては、今後のリテンションモデルのあり方や、そこでの重要な概念についてということではあったが、カスタマーサクセスという概念を切り口として、このようなことを考えさせられる一冊だった。

 

…と、記事を締めくくろうとしたが、後日談がある。先日「あきない世傅 金と銀」の新刊を読んで、カスタマーサクセスについて思い返す体験をした。

あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇 (時代小説文庫)

あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇 (時代小説文庫)

  • 作者:高田郁
  • 発売日: 2020/02/13
  • メディア: 文庫
 

 江戸時代の呉服屋を舞台とした小説で、まいどまいど楽しみに読んでいるのだが、この作品を読んでいて、カスタマーサクセスについて思い返すなどした。

「買っての幸い、売っての幸せ」という思いを元に商売をしている主人公だが、この昔ながらの、お店でのやり取りだけではない商売のあり方。「いかに買ってもらうか」ではなく「この商いによってどう喜んでもらうのか」を考えるあり方は、カスタマーサクセスに通ずる。否、順番が逆だ。カスタマーサクセスというのは、この「顧客がどうしたら喜ぶのか」を考えに考える行為である。買った上で、それを楽しんで着てもらうにはどうしたらいいのか。この商いを通じて、その人の生活がどう良くなるのかを丁寧に丁寧に考えるという、商いの原点がここにあった。

着物を売る、買うだけではない。普段から着る着物だからこそ、例えば帯の結び方の講座をやってみたり、お客様の手持ちの着物・過去に買った着物を元に新たな提案をしてみたり、商品の見せ方を工夫してみたり、女性だけでなく男性も着物を楽しんでもらうようにできないか工夫を凝らしてみたり…。

商品だけでなく、その先にある成果・喜びまで提供することを考えて、末永い付き合いをしていくという対応が、カスタマーサクセスの原点なのだと先に挙げた本にも述べられていて、更に腹落ちしたのでした。

みをつくし料理帖のときからもそうだけれど、髙田郁さんの描く商いは、こうあってほしいなぁと思う商いの姿であり、とても惹かれるものがある。