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Inscryption感想。ネタバレ厳禁の果てにあるのは未知から得られる驚きか、あるいは。

Inscryptionを遊びました。

本作は「ネタバレ厳禁」「気になったら情報を入れず遊ぶべき」と喧伝されており、実際周囲にも遊んだ方がそうおっしゃるので気になってました。TUNICやヘイルメアリーに引き続きそういった前評判から手を出すことが多いわね…。

確かにこれは「ネタバレ厳禁」であり、何が起きていくのかを体験していくことが大事なタイプだなと思いますが、「気になったなら何も調べず遊んでみな!!」とオススメできるのかというと、私はちょっと「うーん」となったタイプです。

いや、おもしろかったんですどね。どこまでがネタバレになるのかはよくわからない。おもしろく遊んでいたのは確かなのだけど、終わった時点で抱えている感情は、どうにもすっきりしていない…というのが素直な感想です。

以下、「内容には触れないけど、こういった感情だったわ」を紐解く感想と、もう少し内容に切り込んだ感想を書いていこうと思います。

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内容に切り込まない範囲で、感情について語る部分

何も掴めないおもしろさ

PVにもあるように、不気味な雰囲気の中、いきなりカードゲームをやらされるところから始まる本作。何もかも手探りで、言われるがままにこの不気味で不可思議でおどろおどろしいゲームの雰囲気にのめり込んでいきます。

「こういうことかな?」と掴み始めた頃に「どういうことなの?」が畳み掛けてくる。「つまりこういうことかな」と掴みかけると「そんなことある??」に出会う。そんなエンターテイメント性にまんまとやられました。私が愛読しているりくぜんさんのブログでのコメントが素晴らしいので紹介させてください。

遊んでて「えっ、何これ…」となるゲーム。安心という感覚が、自分の脳に保存されている過去の経験を参照することによって生まれるならば、驚きという感覚はその逆。自分が知っている情報と照らし合わせても合致するものがない状態は、SFを読んでいる時のように心がフワフワとし、あぁこういうのを体験するためにゲームをやっていたんだったなと再認識させてくれる。知らないことを知るために人生があり、体験したことがないことを体験するためにゲームがある。

ゲームの感想2022 - 当たり判定ゼロ

まさにこれでした。"自分が知っている情報と照らし合わせても合致するものがない"何かをずっと浴び続けるような、そんな感覚。

解釈の余地を残すことと、広げた風呂敷を畳まないことはイコールではない

クリアしてから数日考えて、たどり着いた言葉がこれです。プレイヤーに解釈を委ねること・妄想する余地を残すことと、なにか仕掛けを施しておいてその中で回収しきらないというのは、ゲーム体験…あるいはあらゆる作品において別のことであると私は感じました。

もちろん、作品の中ですべてが語られる、満足行くまで説明される必要があるのかと言われれば、そうは思いません。時に語り尽くすことが野暮だとも思います。とは言え私は、本作について"語り尽くさない余白の良さ"ではなく"消化不良感"を感じました。

ちっとも予期できない、創作料理のフルコースを舌鼓を打ちながら楽しんでいたが、期待したメインディッシュがこないままコースが終わってしまったような、そんな感覚。食べている時は最高の気分だったのに、コース全体を通じてはなんだかしこりが残ってしまうような。

何も知らずに遊ぶことを推奨するのは正しい。ただ、このゲームを絶賛し、万人におすすめできるのか?と言われると、うーん…と思ってしまう。

とはいえ…とはいえ。ゲームをプレイした人とあーだこーだと喋りたくなる内容であることには間違いない。もしかしたら、ゲームをクリアした人が「あれを体験してみてどうだった?」と語りたいがゆえに、未プレイ者にもぜひ体験してほしいと思っているのかもしれない。ああ、それならわかります。

 

 

ここから先はネタバレです。クリアした人に向けて「そうそう、そんなこともあったよね」を話す場です。

 

 

 

クリアした方向け

レシー倒すまでが一番盛り上がったまである

カードゲームだけではなく、立ち上がって探索することもできる。脱出ゲームのような形でパズルを解くような場面もある。カードゲーム自体も、ステージを進める上で不穏な要素がどんどんでてくる。焚き火がとっても怖い。オコジョが急に喋り始めるし…。負けたら写真に撮られてゲームオーバー…。

PS4のコントローラーのライトってこんな挙動制御できるんだね…すごいね…と驚かされました。めっちゃ怖いやんけ。

負けるたびにちょっとだけ新しい要素も解禁される。骨の要素、トーテムの要素…カメムシが登場し、短剣を獲得し…。実験体?謎のスライムとも出会う…。

マンティスゴッドの力を得て無双したり、三叉攻撃によって罠猟師との戦いで逆に苦戦したり…。次のボスは何をやってくるんだ!?とひやひやしながら、その対策を立てながらデッキ構築をしていく過程が一番楽しかったかもしれませんね。1戦1戦ちょっと考えながら進めねばならず、しかし良いコンボが組めると一気に優勢に進められる。

リスにサーチの能力を付与できた回でクリアしたのですが、マジでチートでした。「生贄に捧げると血3個分になる上に、輪廻によって死なない」低コストカードを生み出した結果、最後も余裕でした。ラスボスはタッチ・オブ・デスで一発だったのには拍子抜けですらある。

こういう「何!?何?!」みたいなのが毎回発生しておもしろかった

次の展開もハラハラした

突然の実写ビデオ。カーダーさん?これはカーダーさんが遊んでいるもの?ニューゲームを選んだらいきなりドット絵世界が始まって、「終わったと思ったら始まったでござる」の巻。いったい何が始まるんです…?と、ゲームに振り回されながら、まだこの時点では心地よい振り回され方でした。第一章でカードになっていた気がする人名が登場したり、これはいろいろな伏線が?絡み合い?回収されていくのかな?とそわそわ。

しかし登場人物たちが話しているのはわけのわからないことばかりでした。何を言ってるんだ君たちは。

どういうことかわからないことを見抜かれた場面

今までのカードゲームのルールはある程度そのままに、自分でデッキ構築をすることと、ルールにバリエーションが増えたこと。このあたりのカードの広がり方は楽しかったですね。各ステージそれぞれで特色が違ってよかった。しかし私は最初にオコジョロボを選び、エナジーデッキで通しました。エナジーイズ至高。

第三部からのトーンダウン

全員のスクライブを倒して何かしらの展開が訪れるのだろう、区切りになるのだろうと思ったら、P-03が支配する領域に引きずり込まれる展開に。ステージを進めていく展開はよいのだけど、このあたりから「進めるためにカードをやらされる」感覚に陥っていく。

どことなく某ゲームを思わせる。きみは本当にバカだね

未知を開拓するというよりも、次の展開を見るためにたらたらと進む。このとき思っていたのは、2部で誰を選んだかで展開が変わるのかな??ということ。それが変わるような話なら、あるいはそれをコンプリートすることでたどり着ける境地があったかもしれないし、「そんなにやらなあかんのかい」と突っ込みたくなる感覚に陥っていたかもしれない。

なんとなく苦痛めいた、あるいは作業めいた感覚があったのがこの章でした。HDDへの干渉あたりは、PC版でやっているとまた違った感想になるのだろうなぁ。「カーダーさんのHDDのシステム周りを選ぶのは怖いから俺はDドライブを選ぶぜ」なんてことをやってました。ファンアートとか率先して使ってゴメンな。

エンディングを迎えて

いきなりデュエリストになったのは申し訳ないけどめちゃ笑ってしまいつつ、消えていくシステム、消えていくスクライブたち、そして…襲撃されるカーダー。そしてエンドロール。エンドロール…?????

こんな顔にもなるわ

終わりなんだ??と。このデータ自体に対して自分は今どういった位置づけにあるのか。特段スクライブという存在に思い入れがあるわけでもない中、データが消失していくクライマックス感の演出にさして焦りの気持ちが生まれなかったのはPS4で遊んだからでしょうか。

この後各チャプターが遊べるようになっていました。各チャプターが遊べるようになるんかい、というところも引っくるめて、達成感を得たのか、なにかに満たされた気持ちになったのか、すっきりしたのか…そのいずれでもなく、ただただ戸惑いがありました。エンディングで戸惑うゲームは数多あるっちゃあると思いますけど。

評価されている事象の一部は、not for meな部分でもあった

もう自分でいろいろ追跡する気力が起きずにある程度調べてみると、ゲームの中に隠された秘密を解いていく営みを知ることができました。ゲームの中にある隠し要素に「へえー!そんなことができたのか!」という気づきもありつつ、それとは別にゲーム内に仕込まれた暗号を解読すると何かを得られて、それから得た情報から隠しコマンドがわかり…などなど。あるいは、ゲーム内で示された場所に行くとアイテムを獲得できたり、たどり着いたサイト経由でフロッピーディスクが送られてきたり…。

フロッピーディスクが送られてきたり」の時点で、私は天を仰ぎました。そういうのが前提でいいのか???と。ゲーム内に隠されていた暗号を解く…までであればそれは良いと思う。しかし、ゲーム外で発生するイベントが必要となるのは…それはもう、違う営みではないか。

前提として、「こういった発展の仕方は画期的だ」「現実とリンクした謎解きなんて実験的だ!」と評価する人がいるのはとてもわかる。わかる上で、私はそれを求めていなかった。それだけの話だと思います。ところがどっこい、ゲーム外での謎解き合戦の末に、すっきりした答えがあるのか?といえばNOらしい。なんじゃそれ!!!とずっこけてしまう。

これは作者が手掛けたゲームたちをまたいだ一種の表現であり、一つのアート、クリエイティブなのだと腹落ちしました。作者はあくまでゲームという媒体を用いて今までにない"体験"や"驚き"を生み出す方なのだなと。評価の方向性はそこあるのかなと思いました。

そして、このゲームはエンディングを迎えても終わりではありません。衝撃の展開の末に待つもの……はっきり言って、ここがこのゲーム最大の「賛否両論」ポイントであり、人によっては怒る人もいるだろうと思います(ピンと来ていない人は「Inscryptionをクリアした人のための攻略情報」などでググってみてください。ここで合う合わないが出るのはもうどうしようもないです。だってそれが「作家性」なのですから。取りあえず「Daniel Mullinsってこういうことをする人だから……」とだけ覚えておいてほしいな、とは思います。

2021年個人的ベストゲーム! 闇のカードゲーム「Inscryption」は「めちゃくちゃうまいカツカレー」だった:やや最果てエンタメ観測所 - ねとらぼ

そう言われちゃったら…ああそうですか…としか言えませんね。そうは言っても仕込み方の良し悪し、あるいは見せ方の良し悪しはあるんじゃないかな?とも思ってしまうのは往生際が悪いでしょうか(笑)

 

繰り返しになりますが、ゲームが楽しくなかったわけではありません。私は間違いなくこのゲームを楽しく遊んでいました。それはすごいな。実際おもしろいも両立しているもんな。

しかし遊び終わった時に待っていたのは、なんとも言えない消化不良感。先述の通り、見たことのない創作料理コースを美味しく食べていたのに、最終的に"創作料理を振る舞うテイで行われた実験だった"みたいな。「あれっ結局俺は何をさせられたの?」とキョトンとする体験でした。

Inscryptionがアップロードできたのかどうかとかはある程度解釈の余地というか、考えると「そういうことか…!」とぞわぞわするものの、実写で何故か襲撃されてしまうこととか、OLD_DATAの不穏さとか、天秤で狂ったように遊ぶカーダーさんの映像とか。そういったことについて、ある程度の収束があってほしかった。これはもう求めることとの不一致であり、作品の善し悪しではありません。少なくとも「ネタバレ厳禁!知らずにやれ!すごいから!」とだけで万人に勧めるのとは相性が合わないなぁと思ったりします。

便利な画像だな…

 

 

ここから先はやむを得ずUNDERTALEとTUNICの話を含みます。同作を未プレイの方はご注意ください。

 

 

 

 

他のゲームを引き合いにだすのもよくないのですが、私のゲーム体験から紐解くと、UNDERTALEはとてもいい体験だったなあと更に際立った思い出になりました。メタ的な要素も、「これからいったいどうなるの?」とずっとドキドキさせられた体験も、"こういうことか"と思ったら裏切られる展開も、そこまで作り込まれているのか!!と作り込みに驚かされることも。考察の余地も試す余地もたくさん盛り込んでいるUNDERTALE、素晴らしいのはゲーム内でほとんど収束させられている点。場外乱闘で解釈合戦する材料はすべて作中で語られる、あるいは表現されている。

集合知を前提とした謎解きという観点ではTUNICのオマケ要素の最後の最後はしんどいですが、あれはまぁ、本筋とストーリーとは関係ないコンプリート要素の果てのものであり、めちゃくちゃ重要な謎解きというわけでもなさそうなのでね。Thank you for playing的なものなので。これはただの贔屓かもしれないけれど。自分の体験として楽しかったかどうかの話に近い。

ともすれば、Inscryptionはゲーム単体ではなく、ゲームを媒介とした…。…あー、ここまで書いて思い至ったのが、映画でよく描かれる呪いのビデオとかそういう部類なのかもしれない。このゲームに仕込まれた謎を、世の中の人が解こうとするムーブメント。それの入れ子構造。ゲームの中でカーダーさんがやったようなことを、ゲームの外にいる我々とリンクさせていく。それがInscryptionなのでしょうか。

 

こう書いていると、論点が二重になってズレていってしまうようにも思います。ゲームを進めていく上で繰り広げられる不穏さ、ドキドキ感といったエンタメ性はありました。

実写パートやメタ展開が展開され上で、それら納得行く形だったのか?というと収束しないモヤモヤ感。そのモヤモヤ感が、ゲーム内に残るさらなる謎解き意欲を掻き立てることは否定しないまでも、そこに駆け出していく人や、先人がもうある程度謎を解いて盛り上がっている姿を見て、私は「あそこまでは楽しかったのになぁ」と振り返りながら、ポツンと独りごちているような気持ちになったのでした。

何がなんだかわかんないまま、「ゲーム」を進めていく感覚は楽しかった