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成瀬の勢いに、心と体が引っ張られた。私も島崎と一緒に見続けたい。/『成瀬は天下を取りにいく』感想

最近、しんどい場面を読んだり見たりするのが苦手になってきたように思える。主人公が逆境にぶつかるとか、困難に立ち向かうとかは問題ない。"むき出しの悪意"であったり"理不尽な言いがかり"、"あからさまに足を引っ張ってくる"みたいな存在が苦手だ。

ひたむきに頑張っているだけなのに、「調子に乗るんじゃねえぞ」なんて言いがかりをつけられるとしんどい。そんな理不尽なことで真っ直ぐな存在の主人公の邪魔をしないでくれ…!と願ってしまう。真っ当に成長して、真っ当に困難にぶち当たってほしい。人間の歪な感情や憎しみや理不尽な言動や行動は現実でイヤというほど味わっている……からなのだろうか。それはそれでつらい話だ。

とはいえ、ここ最近の私が漫画や小説作品で特に惹かれているものを見返すと、安心して応援できるものであったり、"ひたむきさが他者の悪意を生む"ではなく"ひたむきさが味方を生む"ものなのかもしれない。や『スキップとローファー』『エルフ夫とドワーフ嫁』はそれに近いかもしれない。『片喰と黄金』もそうだろう。正直言えば『スキップとローファー』は時々しんどい(笑)。最新の単行本あたりはそう。うぎぎ。これが学園モノ、人間ドラマの宿命…!

とにかく、『成瀬は天下を取りにいく』を読んで、ふと上記のようなことを思った。というか、言語化したくなった。心と身体が引っ張られていった。私はこの作品がとても好きだ。

 

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この本はお嫁さんから「滋賀滋賀した本があるって」と紹介されたのがきっかけで気になっていた。その後立ち寄った書店でドドンと積まれており、帯の西川さんの「こんなに滋賀滋賀してていいんですか?」を生で見て惹かれ、あらすじと目次で完全に持っていかれた。

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2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。

成瀬は天下を取りにいく Amazon紹介ページより

『西武大津店』の閉店を題材にした小説があるなんてマジかよという驚き。近くには大津パルコもあり、筆者が滋賀で中学高校生活を過ごした頃には「近くのスーパーではないところへ服を買いに行くなら」みたいな位置づけだったと思っている。

中学高校時代おしゃれというものには程遠く、イケてる同級生の行く場所(そしてちょっと怖いところ)くらいに思っていた。服などを買わねば買わねばと思う頃には京都にある大学に通い京都で買うようになったので、結局大津エリア…膳所駅エリアで買い物する機会を失い、そのままどちらも閉店してしまった。そんなにわか滋賀の筆者でも、西武大津店というローカルネタには食いつかざるを得なかった。

書店でぺらりと目次を眺めてみると、セカンドインパクトが待っていた。『レッツゴーミシガン』。私はレジに本を持っていった。

目次の時点で最高だ

ミシガン

はたから見た時に、成瀬は「変な人」かもしれない。いきなり夏を西武に捧げようとするし、200歳まで生きようとするし、お笑いの頂点を目指そうとする。自分の立てた目標にまっすぐである。あまりにも堂々としているものだから、マイペースとも取られ、時に「変なヤツだ」と反感を買うことがある。別にデリカシーのないことを言うわけでもなく、人に迷惑をかけるわけでもない。なのにである。人っていやね…迷惑かけられたわけでもないのに、自分が勝手に気に入らないだけなのに、「アイツが調子に乗ってる」と原因を相手にすり替えてしまうようなところがさ。…あ、話がズレてしまった。

そんな成瀬と、昔から成瀬を見守ってきた島崎。島崎がいい。島崎がいいのだ、このお話は。中身については読んでくれとしか言えない。

全体の構成も見事だと思う。成瀬のまっすぐさと、西武大津店の閉店と、彼女たちの進学。周囲のことを書いてきた後に、成瀬の視点で描かれる章の…なんと言えばいいのだろう。尊さ?尊さだろうか。成瀬の人間性がわかると、今まで以上にこの作品が愛おしくなる。読後感の爽やかさが何段階もあがる。そして「成瀬のこの先が読みたい。島崎のその先が見たい」そう思える。読み終えるのが寂しかった。

まっすぐに歩んでいく成瀬と、成瀬を見守ると決めている島崎の関係性が素敵だ。成瀬のような人がいたら、私も島崎のように見守っていたいと思う。成瀬のように目標に向かって一途であったことがあったか?と自問もする。なんだか自分を奮い立たせてくれる。そんな作品だった。

『スキップとローファー』のみつみちゃんに対して「このまま真っ直ぐでいてくれ…!つらい思いをせずに、その理想を掴んでくれ…!あなたの素直さで良い関係性を築いてくれ…!」と応援しちゃうタイプの人は、きっとこの作品が好きになる気がする。そして滋賀に来ておくれ。ミシガンの赤い外輪は、たしかに巻き込まれたらアカンな…と思うよ。