「うんうん。」としみじみ爽やかに読み終わる小説もある。
ストーリーに魅せられたりキャラクターに魅せられたり、言葉選び一つ一つにため息をついたりもする。…と、読書では心揺さぶられたり、落ち着かせたり、いろいろあります。今回紹介するのは宮下奈都さん。
小説もエッセイも楽しく拝読しています。
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ストーリーに大スペクタクルがあるわけでもなく、あらすじを書いてみると、主人公が彼ら彼女らの生活の中で、何かと向き合い、気づき、自分(や周囲・環境)が変わっていく…という話になる。 「良いなぁ」と思うのは、その「気づき」に至るまでのこと。
人の心が動き、変わっていく瞬間は、いつでも誰にでも訪れるはずです。それこそが「物語」になり得ると思っているので、その変化の瞬間を書きとめたい一心でいます。とはいっても、人の心が動く、変わる、そのきっかけを作る外的な要因はそれほど重要ではない気もするんです。それよりも、ある出来事によって心はどう動き、結果、人はどう変わるのか。私にとっては、その内面の変化をきちんと掬い上げられるかが眼目なんですね。 (中略)そうなんです。「宮下の小説には何も事件が起きない」と言われる(笑)。確かに、できるだけ特別な出来事のない日常を舞台にしていますが、「実は起きている」と言いたい気持ちもあります。内面の変化って、いちばん大きな事件ではないですか?
登場人物の「気づき」は、周りの人が説得したり、何かに誘ったり、と働きかけているだけではなく、他の人の生き方や取り組み方、考え方に触れて、あるいは自分が自分を振り返って「あ。」と気づくという類の「気づき」・「きっかけ」はホントどこにでもあるんだな、と思えてきます。小さな発見が、彼ら彼女らの世界をぶわーっと広げていく。読んだ作品を全部紹介したいところですが、本日はいくつかピックアップして。
宮下さんの本で「一番好き!」っていう順位はつけられず、いわば「総合1位」ではなく「◯◯部門1位!」という感じでしょうか。心のどこにひっかかったとか、読後感に感じた愛おしさとか。いろんな要素がどの作品にもあって、どれが一番だと言いがたい。
短篇集です。
この本は最初に読んだ時に「すごい!」となりました。何がすごいのか自分でもよくわからなくて戸惑ったのも良い思い出。特に最初の「アンデスの声」での衝撃はたまらなかった。短編という短い中で、一つの世界が構成され、最後にそれがぶわーーーーーっと広がっていく。
話の展開もさることながら、わずか数十ページに切り取られた世界しか見ていないが、その前後がありありと見える。こんなことができるのか!と驚いた記憶が非常に強いです。
素敵なのは、短編同士でどこかリンクしていることもあって、それこそ彼ら彼女らの世界の広がりを感じられて心地よかった。
注目の著者が贈る、明日への「リスト」の物語突然、婚約破棄を言い渡され目の前が真っ暗になった明日羽は、叔母に、やりたいことやほしいもののリスト作りを勧められる。ひとりの大人の女の子の、本当の成長の物語。
「毎日のご飯は自分を助ける」「自分で選んだもので自分は作られる」
この作品に出てくるそれらについての気づきは、今の自分に強く生きています。自分がこうやってきたから、今があるということ。それで「やってきたことが足りなかったから・・」と思うこともあるけれど、今こうして◯◯さんと話ができたり、であったり
△△さんと愉しく遊べたり…あんな経験ができたこと!とかは、自分がそれに繋がる何かをやってきたということ。
今こういう感情や価値観をもっているのは、自分が(知らずのうちにも)それを選んできたということ。それを足りないと嘆くのではなく、だからこそ自分があり、その自分は次に何を選ぶのか、何を欲するのか。そういうところを大事に大事にしていきたいと感じさせてくれました。
主人公の「再生」と「気づき」と共に、自分自身も気づいていく。
著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、
音大附属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。
挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。
しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる――。
見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出す。 単行本刊行時には、<読売新聞読書委員が選ぶ「2009年の3冊」>という企画(2009年12月27日朝刊)で、小泉今日子さんが推奨したのをはじめ、書評家、書店員諸氏も絶賛した傑作、待望の文庫化。
「物語」としての収束感が最高に好き。物語、というか彼女達それぞれの道があり、その中で気づくことがあって、一つの形を最後につくる過程を追うのが愉しくて愉しくて。続編に「終わらない歌」があります。こちらもおすすめ。彼女らの世界は終わらない。
私の歌がすごいんじゃない。私の歌で誰かのどこかを揺さぶる。つまり誰かのどこかに揺さぶられるものがある、ということに希望を感じる。胸が震える (P.254)
「足りない」と感じることもあろうけど、「少なくとも自分は何かしらの気づきや歩みで作られているんだ」ということを教えてくれる。
もう一冊、本当に愛おしい一冊があるのですが、これはまた別の機会に。