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映画 「羊と鋼の森」を観てきました

豊かな自然の中、真摯さやひたむきさを食み育った作品 だなぁという感想。

 

hitsuji-hagane-movie.com

 

将来の夢を持っていなかった主人公・外村(山﨑賢人)は、 高校でピアノ調律師・板鳥(三浦友和)に出会う。
彼が調律したその音に、 生まれ故郷と同じ森の匂いを感じた外村は、 調律の世界に魅せられ、果てしなく深く遠い森のような その世界に、足を踏み入れる。
ときに迷いながらも、先輩調律師・柳(鈴木亮平)や ピアノに関わる多くの人に支えられ、磨かれて、 外村は調律師として、人として、逞しく成長していく。
そして、ピアニストの姉妹・ 和音(上白石萌音)由仁(上白石萌歌)との出会いが、 【才能】に悩む外村の人生を変えることに―。

 公式ホームページ あらすじより

 

映画「羊と鋼の森」を観てきました。

宮下奈都さんが好きで、元々原作を読んでいたことが鑑賞のきっかけではありますが、あまり原作比較にとらわれず、この作品についての感想が書けたらなぁと思います。ただ、原作に思い入れがあるフィルターを持った私の感想なので、どこかしらそういったことは滲み出してしまいそう。

さて。ネタバレ(?)を含みそうなところがでてきたら、文中で表記しますのでお付き合いくださいませ。

 

(ちなみに、原作本に関する感想記事はこちら)

dego98.hatenablog.com

 

 

 休日出勤の振替をどうしようかなーと考えた時に、まっさきに公開日を思い出してそこを指定し、公開初日の朝一番の回に観てきました。

上質な芸術を味わったような余韻、素晴らしい映画でした。映画館の環境で見ることができてよかった。世界に浸ることができてよかった。

 観てきた結果、即日再読も済ませました。いや、ほんとどちらも素晴らしい…。

 静謐な筆致で、外村青年の気づきや、成長を丁寧に丁寧に描いたこの作品。「何か大きなことが起こるわけでも無いけど」、多くの気づきを得ることができる作品だと、私は最初思っていた気がします。ただ、宮下さんはこう言います。

 

私の小説は、ささやかで、大きなことが何も起こらない、とずっといわれてきました。そうか、そうなのか、と思っていましたが、十年書いておぼろげに見えてきたことがあります。小さなことと、大きなこと。どちらが大切で、どちらが尊いか、くらべる必要はないのです。ひとりの人間の中に変化が生まれる。それは、小さなことでしょうか。他の誰かから見れば、どうということのない、もしかすると気がつかないくらいのことかもしれません。でも、本人にとってはぜんぜん違います。

(中略)

 この『羊と鋼の森』でも、大きなことは何も起きていないといわれるならば、この世に起きていることって何でしょう。人が生きていくこと以上の物語がどこにあるのでしょう。

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 はっとさせられました。人の心の変化は些細なことではない。そこに大きな物語がある。

 

この「ひとりの人間の中に変化が生まれる」ことを、本当に丁寧に、しかし力強く描かれていた素晴らしい映画でした。

外村青年の変化、ピアニスト姉妹の変化。本当に大きな物語が、この作品では描かれています。

いやー素晴らしいですよ。っていうか作品の核心みたいなところを考えたら全然書けないですね。あかん。

久石さん×辻井さんタッグのエンディングも素晴らしすぎた。スタッフロール聞き入りましたし、見入りました。あんなに丁寧なスタッフロールも久しぶりに観た気がする。他の映画だと「◯◯製作委員会」ってだけ紹介するところも、「羊と鋼の森製作委員会」は委員会を構成する会社・担当者名もしっかり表記していたのが印象的でした。

 

それでは、ちょっと中身にも触れながらの感想を書くようにします。

物語のエピソードをべらべら話す感じにはなっておりません。というか、私の感情の起伏ばっかり書いてる。

 

こだわりをたくさん感じる作品だった

ここは一番こだわったんだろうなぁという音響関係。なにせ、BGMが無いシーンがほとんど。環境音、呼吸、会話、実際に弾いているピアノの音…それらがしっかりと聞こえるようになっています。BGMによってその場の雰囲気や感情を表すのではなく、役者さんの演技によって、佇まいが何よりも雄弁に物語るような。物語にぐぐっと入り込む…というより、世界に包まれるような感じでした。

調律時に音を鳴らすシーンや実際の演奏シーンでくっきりと音が聞こえ、静と動のコントラストが際立つ!とでも言うのでしょうか。なんか良いこと書こうとしてしまっている感じがするんですが、それくらい印象に残る世界観の作り方でした。

コントラストで言えば、光の使い方がすごかったなぁと思います。使い方というか、陰影による表現がすごくたくさんあったと思う。それこそ最初、外村が薄暗い教室にいるところから、最後の場面の白基調の明るい明るいところで見せる表情の対比も。「ああ、外村は成長したんだなぁ。」と嬉しく感じるのではないでしょうか。 

山﨑賢人さんの、静かながら演技で雄弁に語る様がすごい

外村の戸惑いや、不器用ながら成長していく様、言葉を言葉のまま受け取って混乱してしまったりする様、森の中を彷徨いもがく様、それらを演技で語るのがすごい。小説であれば主人公の心情は文章で語れます。柳さんの言葉を受けてどう感じたのか、どう思ったのか。それを山﨑さんは演技で、言葉なく語る場面が多くあります。瞳の力強さがどんどん増していくのは圧巻でした。最初たどたどしく調律していたところから、最後披露パーティでの調律の表情の変化、すごいなぁー。すごいとしか言いようがない。

演技とは別のところですが、披露宴会場で再度調律する際に協力してくれた由仁ちゃんに「ありがとう!」と明るく大きな声で返事するの、成長ですよね。

鈴木亮平さんの自然体先輩感がたまらない

鈴木さんもよかったなぁー。頼りになる先輩オーラがむんむん出てて、安心して見ていられる。理想の先輩ランキングに入りますね。一緒に仕事したい。

板鳥さんを演じる三浦さんもよかった…。絶対的安心感という感じの先輩...。というかボス。いい職場だなぁ。

ピアニスト姉妹の成長と美しさ

この二人も、…特に和音役の萌音さん。自分の気持をちょっと押し殺しながらピアノに、由仁に向き合うところから、最後の気持ちの昇華まで、一連の変化がありました。っていうか、披露宴会場での、和音のピアノシーン(試奏から本番まで)、美しすぎませんか!?あの横から映した画、おいおい写真集かよ!とでも思わせるくらい美しくて見とれてしまいました。

「ピアノを食べて生きていくんだよ」のシーンをあそこに持ってきたかあー!という思いもありました。畳み掛けてきてたまらないですね。あの出来事をきっかけに思ったんだ!と気持ちの昇華が心に響きました。

台詞を発しないのに放たれる存在感

一緒に観に行ったお嫁さんが気づいたんですけど、外村のおばあちゃんと、外村が初めて単独担当を行った南さん、どちらも台詞が無かったんですよね。言われるまで気づかなかった。何も言わないのに、存在感があるし、エピソードを通じて、他の登場人物を通じてたくさん喋っていたように感じる。すごい。すごいぞ・・なんだこの映画。

「気づく」ことはなんと尊く、また厳しいのか

ピアノの調律はただピアノを整えるだけでなく、演奏者の望む弾き心地につなげられる。聴衆の耳への届け方も変わる。ピアノを弾いていた頃の記憶を思い出させることもあるし、ピアノを弾く力量に気付かされることもある。

「ピアノは世界とつながっている」と外村は表現したけれど、自分とつながり、何か他のものとつながっていく媒体という意味でもあると思っていて、外村にとってはそれはピアノであり、他の人には他の人のソレが存在している。夢中になれるなにか、それに出会い、そこから自分という世界が広がることの尊さと、その険しさや"森の中のような奥深さが"あるんだということを再確認させてくれました。

そこを「こつこつ、こつこつ」ひたむきに進んでいく外村の姿と、それを周りはしっかり見ているんだよ、という事実と、それを経て確かに外村が成長していく様子が、私達の背中をそっと押してくれるんだなぁと思った次第でした。

 

 

いやあー、言葉にすると難しいです。最後はいったい何を言ってるんだ。でもなにか、どうにか言葉にしようと押される何かがありました。

素晴らしい上質な映画体験、ぜひ一度。踏み入ってください。

 

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)